ビットコイン、希少性、貨幣への信頼性

　　学習内容

　　健全性を持つ貨幣にとって希少性が重要な理由

　　既存の貨幣システムの仕組み

　　不換紙幣は希少ではない。そして、なぜそれが問題なのか？

　　なぜデジタル希少性の実現が重要なのか？

　　

　　前回までは、貨幣と貨幣システムの区別、暗号の役割などの暗号通貨の定義や基本的な特徴について学びました。

　　また、ビットコイン（BTC）に至るまでの貨幣の歴史と進化についても簡単にご紹介しましたね。これによって、暗号通貨は完全にデジタルであるにもかかわらず、どのように価値を持つことができるのか、「金本位制」という言葉の起源、健全性を持つ貨幣の基本特性である耐久性、可分性、換金性、移植性、認識性、希少性について把握することができたでしょう。

　　すべてのデジタル通貨は耐久性、可分性、換金性、移植性、認識性を適度に満たしている一方で、デジタルなものに希少性を持たせることは驚くほど難しいことが分かりました。価値は希少性から生まれるので、このことは非常に重要です。もし金が砂のようにありふれたものであったら、あるいはダ・ヴィンチがモナリザの複製を100万枚作ったとしたらと想像してみてください。

　　デジタルの希少性の欠如は、既存の貨幣の最大の弱点であり、それを実現することが暗号通貨の最大の課題でありました。この両方を説明することが、今回の課題であり、お金が価値を保持することの重要性についてから説明していこうと思います。

　　

　　価値を持つ貨幣の大切さ

　　貨幣とは、価値を計るための物差し／基準です。貨幣を交換媒体として使うことで経済に参加しているすべての人は、当然のこととしてこのお金の特徴を受け止めています。すべての貿易や経済活動はお金に依存しており、それは世界共通言語のようなものです。そして、私たちが自分の国の言葉を話すときと同じように、立ち止まって深く考えることはあまりなく、ただ当たり前のことだと考えているのです。

　　1メートルが常に変化し続ける世界を想像できますか？科学、工学、そしてほとんどすべての商業が不可能になるでしょう。

　　貨幣の価値が通用しない世界では、経済活動も同様です。住宅ローンや保険といった複雑なものはもちろんのこと、コーヒーを買うだけでも多くの計算と膨大なリスクが必要になります。複雑な現代の商業取引は不可能になり、最初の記事で述べたような単純な信用システムに戻ってしまうでしょう。

　　しかし、固定され客観的で普遍的に合意された測定法であるメートルとは異なり、貨幣の価値、つまりその測定法は主観的であるため、変化するのです。

　　その変化は、貨幣の相対的な希少性の結果であり、その供給量の増加が貨幣の価値に与える影響をインフレと呼びます。

　　インフレに見舞われた国では、まさにそのようなことが起きるのです。だからこそ、健全な貨幣がとても重要であり、当たり前であってはならないのです。貨幣が極端に不安定になることは想像しにくいとは思いますが、戦時中のドイツが良い例です。

　　食事代は、注文してから請求書を受け取るまでの間に変わってしまうこともありました。

　　給料を受け取るのに、スーツケースや一輪車が必要でした。

　　1923年10月、1英ポンドと1ドイツマルクの関係性は、1太陽＝1ヤードの関係性にと同等でした。

　　第一次世界大戦（1913年）以前は、ドイツ・マルク、イギリス・シリング、フランス・フラン、イタリア・リラの価値はほぼ同じでした。1923年末のマルクの為替レートはこの通りです。

　　1920年代のドイツが春が遠くの国のように思うかもしれませんが、ベネズエラ、ジンバブエ、アルゼンチンでも同じような（少し極端ではあるが）例があり、低率ではあるが一貫したインフレがあらゆる不換紙幣の消費力を侵食しているのです。

　　では、貨幣の価値を維持する秘訣が希少性であるとすれば、暗号通貨はどのようにしてデジタルな希少性を実現するのでしょうか？

　　

　　デジタルの希少性を実現する

　　希少価値のある商品とは、供給量が限られているもので、簡単に作ったり、コピーしたり、手に入れることができないものなのです。

　　物理的なものは希少価値がありますが（金の例のように）、デジタルなものは全く別問題です。インターネットが普及し始めた頃、音楽業界や映画業界が痛感したように、1バイトは非常に簡単かつ安価にコピーすることができるのです。

　　そのため、暗号通貨のようなデジタルマネーは、パソコンを持っている人が誰でも無限にコピーできてしまうようになハードディスクに保存するようなファイルではありません。

　　不換紙幣、暗号通貨を問わず、すべてのデジタル貨幣は、デジタル台帳に基づく会計システムに依存しています。元帳とは、口座名義人に対する借方と貸方の記録であり、残高の推移を示すものです。

　　不換紙幣の97％がデジタルで存在すると聞いて驚かれたかもしれません。例を挙げるとするならば、あなたの銀行口座にあるお金はすべて、銀行の会計システム上の記録に過ぎないのです。3%の物理的な紙幣と硬貨でさえ、中央銀行のデジタル帳簿上の項目として計上されているのです。

　　ビットコインもまた、デジタル台帳に基づいています。ビットコインとフィアットの決定的な違いは、いつ、どれだけ新しいお金をシステムに追加するか、そして台帳をどのように維持するかを管理するためのルールの作り方なのです。

　　そして、偶然にも、この違いがすべてを変えてしまうのです。

　　

　　デジタルマネーの信頼性の問題

　　貨幣は、台帳が正確で正直であると信頼され、供給がコントロールされてこそ、有用（かつ健全）なものとなるのです。つまり、不合理な量の貨幣が突然作られたり、処分されたりして、その結果、消費力に影響を与えることがないようにしなければいけません。

　　では、不換紙幣はどのようにこの問題を解決しているのでしょうか？単純に、政府が直接、物理的な貨幣の生成（鋳造）をコントロールし、政府、銀行、人々の間のクレジット/デビット関係の生成を管理し許可することによって、その通貨の元帳を管理しているのです。

　　これを行うために、中央銀行は、複数のの選ばれた機関（銀行や住宅組合など）にライセンスを与え、独自の台帳を管理させています。国のすべての銀行（中央銀行を含む）の台帳から得られるすべての記録の信用の合計が、その通貨の総供給量となるのです。

　　そして、信頼できる帳簿はこれらの機関が保管するものだけであり、その機関が適切に帳簿を保管することに共同で合意しています。この合意は、彼らが義務を果たすという信頼と、法の支配から生まれています。

　　この権威に基づく信頼システムが、伝統的な貨幣システムを支えているのです。私たちがオンラインでお金を使えるのは、銀行が不正をしたり、持っている以上のお金を使わせないだろうと信用しているからなのです。

　　私たちは、銀行が保有する預金以上のお金を貸し出したり、複雑な投資戦略のためのリスクを引き受けたりして、お金を「創り出す」ことさえ信頼しています（詳細については後述）。

　　実際のシステムははるかに複雑ですが、一般的な原則は信頼に依存しています。私たちは、金融機関がすべての人の利益のために行動すると信頼しなければならず、そうすることによって、金融機関に貨幣システムに対する権限と支配を認めているのです。

　　この中央集権的なシステムは、ほとんどの場合うまく機能していますが、それでもいくつかの顕著な弱点があります。例えば、お金は法律的にはあなたのものですが、実際にあなたの管理下にあるわけではありませんよね。

　　例えば、2ユーロのコーヒーをカードで支払う場合、あなたの銀行にはあなたの口座から2ユーロを引いてもらい、売り手の銀行には店の口座に2ユーロを追加してもらうことになるのです。

　　一カ所に障害が起こった場合、汚職や不正操作、外圧に対して脆弱になります。このため、悪用や不当な管理、経済的排除（例：「銀行口座を持たない人々」-これについては別のレッスンで説明します）に対してオープンな状態になってしまいます。

　　しかし、私たちの中心的なテーマに沿って言えば、不換紙幣（制度的な信頼にのみ基づく貨幣）の最も心配な副作用は、それがいかに希少性を損なっているかということなのです。

　　

　　増大するマネーサプライ

　　経済活動によってより多くの価値が生み出されると、経済活動を継続させるために新しい貨幣をシステムに導入する必要があります。

　　非常に単純に説明すると、新しい不換紙幣は商業銀行によって作られます。商業銀行が新しい貨幣を作り出す範囲は、中央銀行によって制限されています。これが一般的な方法なのです。

　　預金をする新規顧客に対する融資などの信用供与。

　　・再び預金となる既存の資産を購入する。

　　・使用可能な預金である当座貸越枠を提供する。

　　

　　この配給は、絶妙なバランスで成り立っています。一方で、貨幣の創出が少なすぎると、消費が鈍り、経済が停止する可能性があります。実際には、そのようなことはほとんどありませんが。

　　一方で、貨幣が増えすぎると、供給された貨幣全体の価値が薄れ、物価が上昇し、誰もが購買力を失ってしまいます。これはインフレと呼ばれ、極端な場合にはハイパーインフレになり、国全体が破産することもあります。歴史的に見ても、このようなことは、むしろ国の通貨で頻繁に起こる傾向があります。

　　いずれにせよ、貨幣供給のレバーを握っているのは最終的には人間から成る組織であり、本当の意味での希少性はありません。これが、不換紙幣が健全な貨幣とみなされない理由なのです。

　　これまで見てきたように、中央集権的なシステムは脆弱である可能性があります。しかし、2009年までは、安全なデジタルマネー（ただし、健全なものではない）を作るには、間違いなくこの方法が唯一の方法でした。

　　しかし、ビットコインは、最初からこのアプローチを守っていませんでした。次のレッスンでは、その方法を探っていきます。