デジタル通貨と引き換えに「認証された人間」になるために虹彩をスキャンするというのは、まるで「ブラックミラー」のエピソードのようだ。しかし、これはディストピアSFの物語ではなく、Web3の最新プロジェクトの1つとして現在進行中の事態だ。
Matthew Niemerg
2023年07月30日 07:00
ワールドコインは現実をディストピアSFにしてしまうか
デジタル通貨と引き換えに「認証された人間」になるために虹彩をスキャンするというのは、まるで「ブラックミラー」のエピソードのようだ。しかし、これはディストピアSFの物語ではなく、Web3の最新プロジェクトの1つとして現在進行中の事態だ。
オプティミズム上でのワールドコインのローンチは、このプロジェクトがWeb3の分散化の約束を覆す形でまったく逆のものを構築しているのではないかと疑問を持つ人々を生んでいる。それでも、200万人以上の人々がすでに自分たちの生体認証データをワールドコインと共有し、その引き換えに25WLDを受け取るためにサインアップしている。
これはただ奇妙なだけでなく、深刻なプライバシーリスクをはらんでいて、悪意のあるアクターたちのためのハニーポットを作り出す。さらに、外国の主権を侵害する可能性すらあると主張されている。
そもそも、なぜワールドコインが必要なのだろうか
ワールドコインは、その姉妹会社であるOpenAIの予想される外部効果を解決するために設立された。OpenAIはChatGPTなどの人気のあるAI製品を作っている。一方が作り出す問題をもう一方が解決するという構図だ。
創業者たちの言葉を借りれば、「成功すれば、ワールドコインにより経済的な機会が大幅に増え、プライバシーを保ちつつ、AIと人間をオンラインで区別する信頼性の高いソリューションが拡大し、世界的な民主的プロセスが可能になり、最終的にはAIが資金提供するUBI(ユニバーサルベーシックインカム)への可能性を示す道を開くことができると信じている」とのことだ。
ワールドコインの問題点
プライバシー保護の約束と野心にもかかわらず、現在は1つの中央集権的な会社がこれを行っているという事実から新たな問題が生じる。この皮肉はChatGPTも理解している。ChatGPTが「開発途上国の個人の生体認証データを1つの会社が所有するリスクは何か?」と問われたときのいくつかの回答には以下のようなものが含まれている。
プライバシー侵害
セキュリティ侵害
監視と主権
イーサリアムの共同創業者、ヴィタリク・ブテリン氏もこれらの懸念を幾つかに同調している。
開発途上国の複数の個人の生体認証データを1つの会社が所有することは、重大なリスクをもたらす。これらのリスクは、外国の市民へのUBIの支払いと組み合わせることで、社会全体としてはさらに大きなものになる。
プライバシー侵害
虹彩などの生体認証データは、非常に敏感で、個々の人々に特有のものだ。これにより性別、民族性、あるいは医療状態などの情報が明らかになる可能性がある。このデータを1つの会社がコントロールすると、個々の人々をその同意なく追跡し、監視することが可能になるため、プライバシー侵害の高いリスクが生じる。
その会社が生体認証データを商業的な利益のために悪用し、ターゲット広告の対象とするか、他のエンティティにデータを販売しないとは誰が言えるだろうか。これは私たちが過去数年間追求してきたことと全く逆ではないか?
セキュリティ侵害
生体認証データを中央集権化することは、ハッカーやサイバー犯罪者による攻撃のリスクを高める。これは、セキュリティ分野では「ハニーポット」として知られているものだ。大量の魅力的なデータが1つのエンティティによって保管されていれば、最終的にはハッキングの標的になる可能性がある。
この規模でのデータ侵害は、個人情報の流出、詐欺、何百万人もの人々の個人情報への不正アクセスなど、深刻な結果をもたらす恐れがある。
監視と主権
このデータが政府の手に渡り、令状なしに市民の個人情報を取得される可能性がある。自分のデータを第三者に売却すると、保護が少なくなる。腐敗した政府はこのデータを使って行動を操作し、異議を抑え、反対を抑圧することができ、開発途上国を実質的な監視国家に変えることができる。
さらに、もし会社が国境を越えて活動していたら、それは政府や社会に対して不当な権力と影響力を持つ可能性がある。ユニバーサルベーシックインカムのモデルの下で大量の外国市民を金銭的に支援することは、最終的に国の民主的プロセスの自律性と主権を減少させる可能性がある。
ワールドコインのオーブを訪れて自分の虹彩をスキャンする登録者には、「認証済みの人間」と書かれたプロモーションステッカーが与えられる。ここで「個人」ではなく、「人間」とだけ呼ばれることには、若干の違和感がある。
AI開発に関連する仮想通貨プロジェクトに数ドルを渡す代わりに自分のアイデンティティを売るという文脈では、それはほぼ「フロイト的な口滑り」(無意識の欲求が露呈すること)のように聞こえる。人間性という概念が忘れ去られ、今や我々は生体認証データの大規模なデータベースの中の「人間」に過ぎない。
時には事実は小説よりも奇なりである。
マシュー・ニーメルグ氏(Matthew Niemerg)は、Aleph Zero Foundationの共同創業者であり、理事である。彼はコロラド州立大学で数学の博士号を取得し、現在はEU Blockchain Observatory and Forumの専門家として活動している。また、彼はCardinal Cryptographyの共同創業者でもある。
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